話し方講座はたくさんあり、そのほとんどはアナウンサーが講師を務めるものです。
その他には、論理的に話すことを目的としたものが多く、営業経験のある方や、経営コンサルタントの方も話し方を教える講師として活躍されています。
この記事では、アナウンサーでも経営コンサルタントでもない私が、なぜ話し方講座を開くようになったのか、そのノウハウはどこから来ているのか、どのような方が受講されているのかなどについて、お伝えしたいと思います。
話し方講座を開こうと思ったきっかけ
オンラインで完結する事業を持ちたい
2016年に腸セラピストとして起業し、2019年から腸セラピスト養成スクールを開講して、その後のコロナ渦でも、ありがたいことに特に影響を受けなかったのですが、世間を見渡したときに、たった一つの柱で事業を進めていくことに危機感を覚えました。
腸活という健康産業はむしろコロナ渦を機に、そして人生100年時代において必要であり続けることは想像できます。
それをふまえても、基本的にはお客様にサロンに来ていただくことで成立していた事業ですから、お客様の足が止まっても成立するような、つまり、オンラインで完結できる事業を1つ持っておきたいと思ったのが動機の一つです。
1日に施術できる人数は、最大4名くらいというのが現状でして、4名の施術が終わったら、確かに身体は疲れているのですが、頭がまだまだ冴えているんです。
施術なしのカウンセリングだけだったら、あと5人くらいは対応できるんじゃないかっていうくらい、なんだかエネルギーを余らせているなと感じていました。
この有り余ったエネルギーを何かに使いたいなというのは、コロナ渦前から感じていたことです。
専門知識が豊富な先生と、それを学びたいと思っている人の懸け橋になりたい
2つめの動機です。仕事でも、プライベートの時間でも人の話を聞いていると、なんだかおかしな日本語だなぁといちいち気になることに気づいたんですね。
友達同士の会話で、通じ合うのであれば何でもいいですけど、例えばセラピストがイベントの発信をしているブログを読んだときに、わかりにくいなぁと感じたり、テレビで俳優が番宣をしているのを聞いて、変な敬語だなぁと思ったり…。
それで、あぁ私は言葉に関心を持つ方なんだなというのは自覚していました。
そんなある日、とある講座を受けに行ったときのことです。
統計学なのかもしれませんが、世間的には一種の占いのようなものを学ぶ機会がありました。
なんとなく興味があったので、参加してみたんですけど、これが全く理解できずに終わってしまったんです。
自分の意思で意欲的に参加したものの全然わからず、しかも楽しめずに帰宅したことなんて、これまでに経験した記憶がありません。
無料開催だったのですが、楽しみにしていただけにショックを受けたのは、今でも鮮明に覚えています。
このとき、「何でわからなかったんだろう、何で楽しめなかったんだろう、私が講師だったら、他に違うことをしていただろうか」と振り返りました。
これまでに様々な講座を受けてきましたが、このように受講者側として振り返ったのは初めてでした。ここでの振り返りが、私にこんな気づきを与えてくれました。
「専門知識があることと、それをわかりやすく教えられることはイコールではない」
私が腸セラピスト養成スクールを始めるにあたっても、頭をよぎったことです。
腸のことをよく知っているからといって、素晴らしい先生かどうかは別の話しであることは、優れた選手が名監督になるとも限らないのと同じです。それぞれ別の能力なんですよね。
私が学んだ講座の先生は、その分野のプロであることには間違いないんでしょうけど、それをこれから学ぼうとする初心者に向けてわかりやすく話せるかっていうと、別の話しです。それをひしひしと感じた出来事でした。
この講座の先生だけではなく、特に個人事業主として活動している女性を見ていると、「資格を取ったから開業し、講座を開く」という道を歩んでいる人は多いように思います。
特に自由に外出ができなくなったコロナ渦において、オンライン講座が一気に増えたとき、サロンを経営するセラピストさんたちも、同じようにオンライン講座を作っていきました。
例えばアロマセラピストさんが、コロナ渦でサロンにお客様がいらっしゃらないからオンライン講座を作ろうとします。
アロマトリートメントの知識と技術は豊富ですが、オンラインで受講者さんを飽きさせない話しぶりで、わかりやすいスライドを用意し、講座の全体構成や着地点を考えて講座を開いているのかというと、必ずしもそうではありません。
実際に、理学療法士の男性が60分程度のオンライン講義をされるときに私も参加しましたが、講義の途中で主催者が止めて、「専門用語が多すぎるから、ちょっとレベルを落としてもらっていいかな」と話されたんですね。
私は仕事柄、理学療法士の話しは理解して聞いていましたが、それと同時に
これは誰に向けた講義なんだろう
という疑問が湧いたのも事実です。
ひと通りの知識と技術を身につけた理学療法士の新人さんにレクチャーしている感覚もあったくらいです。
繰り返しますが、専門知識が豊富であることと、聞き手を想定して、その聞き手が何を求めているのかを把握し、聞き手にとってわかりやすく伝えることができるかどうかは別なんです。
学校の先生でも、教科書を読むだけで授業がつまらない先生と、難しいことでもわかりやすく教えてくださる先生っていたじゃないですか。
あーやっぱりこういうことだよねって気づいた私は、だったら、
専門知識が豊富な先生と、それを学びたいと思っている人の懸け橋になることができるのではないか
と思ったんですね。
先生の「教えたい!」という気持ちとか、それまでに身につけた知識や技術が広まらないことも、学びたいという意欲が満たされない受講者が生まれてしまうことも、どちらももったいないじゃないですか。
アナウンサー経歴はないけど役者経験ならある
私は舞台役者としての経験があるので、アナウンサー経験が私にないことは、決してマイナスにはならないと思いました。
アナウンサーというのは、用意された原稿を決められた抑揚で話すことが仕事です。誰が聞いても不快感はありませんし、むしろ心地よく聞こえるでしょう。
一方、私が行う話し方講座は、万人受けを狙っていません。
話し手の個性が出るくらいでちょうどいいと思っています。目を閉じて聞いたら、誰がしゃべっているかわかるくらいがいいんです。
なぜなら情報伝達が仕事ではないからです。聞き手にとってわかりやすいことはもちろん、話し手のファンを作ることも考えています。
私がサポートしたいのは、専門知識が豊富なのにそれをうまく伝えることができない講師だからです。
講師個人にファンを作らないと、仕事として続けることは難しいです。
いくらアロマの知識が豊富でも、理学療法士として実績が豊富でも、上には上がいます。
「○○先生から学びたい!」と思ってもらうことが大切なので、講師らしさはなくさないようにしたいのです。
ファンがつく講師になるには、アナウンス力ではなく、読解力と表現力が必要です。
その理由を解説していきますね。
読解力は話し手にも必要
読解力というと、文章を読み解く力だと思われがちですが、それだけではありません。
相手の表情や仕草などからどんなことを考えているのかを想定したり、把握したりする力も「読解力」なんです。
もちろん、他人の心までを読むことはできませんが、例えば受講者がわかりにくそうな表情をしていたら、講師はそれを見逃さずに対応できるかどうかは大切ですし、受講者が「先生、私のことを見てくれている!」って思ってくださったら嬉しいですよね。
また、講義時間が長くなったり、難しい話しが続いたりして退屈しそうなとき、講師は臨機応変にワークを挟んだり、抑揚を変えたりする力があると、講師として重宝されます。
受講者の言葉だけでなく、非言語的な反応を読み解く力は必要になります。
人前で話すなら表現力を身につけよう
あなたはアナウンサーになりたいですか。原稿をただ読むだけのスピーカーになりたいですか。
そうではなく、受講者がファンになってくれるような講師になりたければ、パフォーマーになることを目指しましょう。
聞き手にわかるように人前で話すのであれば、その存在はパフォーマーです。表現者なんです。
ここで私の役者時代の経験をお話ししますね。
私は約10年間、舞台役者として活動してきました。少しだけ映像の現場にも足を運んだことがあります。舞台と映像の違いは、単純にやり直しができるかどうかというのが大きいですが、それ以外にも魅せ方が違ってきます。
私の経験上、人前で話す講師は舞台役者に限りなく近いんです。
オンラインの動画教材を撮るのは別にして、一般的に講師はリアルタイム、かつオフラインで受講者と対面します。
受講者側の空気感というのは講師にも伝わってくるもので、その空気感を感じながら講師は進めていきます。
舞台役者も何度も何度も稽古をしてきたものの、本番の劇場(客席)の空気感を肌で感じながら、それを取り込みながら演技をしていくのです。
よく「前説で会場を温める」っていうのがありますが、演者が最高のパフォーマンスをするためには会場の空気感ってとても大事なんです。
話しを全く聞かない生徒がゴロゴロいる教室の空気がよくないのを想像すると、おわかりいただけますでしょうか。
また舞台役者がどんなに悲しみを表現していたとしても、それが一番奥の客席にまで伝わらなければ、「悲しみを表現していない」との同じです。
いくら役者が「そんなつもりはない!」と言っても、たとえ涙を流しても通用しません。
第一、客席にいたら、役者の涙なんて見えませんよね。
講師も「こういうつもりで言ったんだけど、誤解を与えてしまった」にならないように注意が必要です。「そんなつもりはない」は通用しないんです。伝わったものが全て。
だからこそ、表現力を磨く必要があるのですね。
もちろん、アナウンサーも役者も滑舌よく話すことや、腹式呼吸で喉を痛めない話し方をすることなど、共通する部分もあります。
どちらがいいとか悪いとかではなく、人前で話すならその場その場に応じた表現力を持っておいた方が、講師の魅力が開花し、ファンができますよ!ということですね。
アナウンサー経験はないけど講師経験は10年以上
人前でキレイにアナウンスする経験はありませんが、「人に教える」という経験は10年以上やってきています。
例えばエクササイズのインストラクターや、ダンスを後輩に教えるということも長くやってきました。
エクササイズのインストラクターのときは、いかに楽しめるか、また来ようと思ってもらえるか、運動が苦手な人も巻き込めるかっていうところを重視していました。
エクササイズの専門家という立場で見ると、本当に経験は浅い方でしたが、私が教えているのはアスリートではないのです。
地域の主婦層や、高齢者(要介護者含む)だったので、継続してもらえるかどうかを一番に考えてレッスンを行うことで、リピーター様が増えていきました。
要介護認定を受けている高齢者さんが週1通われていたのが、週2とか週3になっていったんです。
腸セラピスト養成スクールでも、看護師や保健師の方も受講されていますが、長らく専業主婦だった方も、身体のこと、内臓のことなんかも楽しく学ばれています。
講義の最終回にはほぼ全員が「あっという間でした!また来たいです」とおっしゃってくださいます。
腸のことを正しく伝えるのは当たり前で、いかに学習意欲を高めるか、自分のモノにしてもらうかを、受講者さんを見ながら多少のアレンジをしています。
この場での優先順位は何か、それをクリアにするには何に気をつければいいかを考え、内容をデザインし、それに相応しい講師としてパフォーマンスをする…
人前で話す人はただ知っていることをしゃべればいいわけではないということが伝われば幸いです。
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